白鳥学園、いきものがかり
***


小さな寝息が聞こえてくる。
額に汗が滲んでいるのは紬。

累は紫虎庵にしっしと手を振った。


「早く行って来て」


庵は思わず眉間に皺を寄せる。


「鷹埜先生は君の担任じゃないのか?それなら君自身が行くべきだ。それに……雲雀ちゃんを君と二人っきりにはしたくない」


今にも口付けをしそうなほどの距離。紬に近付く顔が直ぐにでも唇同士が触れ合いそうだ。


「お前、嫌い」

「…奇遇だね。僕も君がいけ好かないよ」


累は紬のポケットから薬を取り出した後、さっき落とした飲み物を取りに行く。

底が凹んだ、いちごみるく。
変形したペットボトルの水。


「そこに居てもいいよ」


そう言いながら、累は紬の薬を口に含み、ペットボトルを開ける。


「勝手に見てれば」


水も口に含んだ累はそのまま紬の口へ流し込んだ。


「……んっ…、」

「紬、もう一個」


累の肩を掴んだのは庵だった。
かなり怒りを露にしているのが目に見えて分かる。


「君はまた…!」

「お前、紬の事好きなの?」


累にそう言われ、言葉に詰まった庵。


「…………初恋、なんだ」


少し頬を赤らめ話した庵の言葉に、累は思わず吹き出した。



「俺だってそう。紬が好き。大好き。だから離れなかった。ずっと傍に居た。お前とは違う」


「……っ、それは病院が変わったから、」


「馬鹿だね。俺ならそれでも離れない。同じ病院行くように、悪化させて自分自身で傷付けてでも離れない」



累はまた口に薬を含ませた。


「そうしなかった時点で、お前は俺に負けたんだ」


────────口移しで流し込んだ。


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