白鳥学園、いきものがかり


累が電話をしながら戻って来た。
片手にはパンパンのコンビニ袋。

眉間の皺を見るに、仕事の電話なのだろう。


「……行かない」


電話口からの大きな象山さんの声が聞こえていた。累は溜息を吐きながら通話を切った。それでも何度も着信音が響く。


「さっさと行けよ」

「……うるさい」


累はベッドの上に買ってきた物を並べた。


「紬、何食べたい?」

「…っ、要らないよ」

「この点滴なら大丈夫。食べて良いって」


……そういう事じゃないんだけど。

お腹は空いていない。
喉も渇いていない。

だから要らないってだけの話なのに。


累はメロンパンの袋を開けると、一口サイズにちぎり口元へ持ってきた。


「食べて」

「累…私本当に大丈夫だから、」


累から顔を逸らした。視線の先に映ったのは紘。


「無理に食う必要ねぇ…、」


紘がそう言った時だった。
私の頬を掴み累の方に向けられた。

口を開けきる前にねじ込まれるメロンパン。ぽろぽろと生地が落ちていく。


「っ…ん、!」

「美味しい?」


突然の事で噛んで飲む前に吐き出してしまった。咳込み、口元を抑える。


「あー…、勿体ない」


ぱくっ、


………え?


累が落ちたそれを食べた。


「うん。美味しい」


────────っ、


「累!そんなの食べるなんて…!」


私が怒るより先に、紘の手が伸びた。
累の胸倉を掴み睨み付けている。


「お前…昨日からどういうつもりだ?」


累はフッと口元を緩めた。



「俺が一歩リード中」



そう言って、「パッ」と唇の音を鳴らした。

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