白鳥学園、いきものがかり
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紬が車に乗った後、翔は紘と凪を連れてマンションの中へと入った。
凪の家に上がり込み差し入れを投げ落とすと、紬のバッグを掴む。
「翔!てめぇ、何のつもりだ!」
突然凪の家に行こうと提案したのは翔だった。二人は無理矢理連れてこられていた。そのせいで更に苛々が募っている。
「五月蠅いなぁ…黙れよ。お前等」
さっきまでの笑顔は何処へ行ったのか。紬に見せていたあの柔らかく優し気な微笑みは消え、鋭い目つきで二人を睨む。
見た事の無い翔の表情に、一瞬動きが止まる紘と凪。
「お前等何してんの?」
「……何って、どういう意味ですか」
翔は髪を掻き上げ大きな溜息を吐いた。
「紬ちゃんがどんな顔してたか見たのか?」
「は?顔?」
「怖がってた。涙まで流して…お前等のせいでどれだけ怖かったと思う?」
「怖がる?そんな訳ねぇだろ。紬は俺の事が好きなんだ。俺に対して怖がるなんて事あるわけねぇだろ?」
紘が鼻で笑うと、翔は大きく溜息を吐いた。本気でそう言っている紘に呆れてしまったのだ。その反面、凪は翔の言葉を受け止めていた。自分のせいで紬を怖がらせた、そう思い絶望している。
「もし俺が来なかったら、紬ちゃんは今頃過呼吸にでもなってた事だろうな。お前等のせいで」
「そんなわけ…、」
「完治したわけじゃないのは馬鹿なお前等でも分かるだろ。それともそんな事も分からないぐらい…紬ちゃんの体調よりも自分の気持ちを優先したのか?」
「っ、翔!てめぇ、俺を馬鹿にしてんのか!」
翔の胸倉を掴みかかる紘。壁に押し付けられた翔は顔色を変えず、紘のその腕を掴んだ。
「そうだよ。馬鹿にしてんだよ」
「あ゛!?」
「お前等が馬鹿やって勝手に自滅すんのは構わない。…でも紬ちゃんが傷付くのだけは許さない」
「っっ…、なんだと?」
ギリッ、爪を立てられた紘は痛みで手を離した。
翔は服の襟を直しながら玄関を出ていく。
風に靡く髪を整えながら口元を緩める翔。
「馬鹿な奴等…どんどん俺に有利になってきちゃったじゃん」
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