悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!
アリスが現れてからというもの、ナタリアはほとんどの時間、部屋に引きこもっていた。

モフ番では、ナタリアはアリスにねちっこい嫌がらせをするのだが、もちろんそんなことはしていない。

ただずっと、アリスの存在に怯えているだけである。

「アビー。見て、このハンカチ。アリス様がくださったのよ。私の名前がこんなにかわいく刺繍されてるの」

「私ももらったわ。使用人全員に配られているそうよ。本当に裁縫がお上手よねえ。明るくて気が利いて、いるだけで花が咲いているみたいに素敵な人……!」

ナタリアが勉強中だというのに、大声でアリスの話をしているドロテとアビー。

「そういえば、午後からアリス様がお茶会を開かれるとおっしゃられてたわ。貴族だけでなく、使用人も来ていいそうよ! いつも頑張っている私たちへの慰労も兼ねたお茶会なんですって!」

「まあ、なんてお優しい方なのかしら!」

ドロテとアビーはきゃっきゃとはしゃぎながら、部屋を出て行ってしまった。

取り残されたナタリアは、まるで世界からひとりはみ出してしまったかのような孤独を味わっていた。

アリスが来てからの変化は、想像以上だった。

人々の興味はいっせいにアリスに集中し、ナタリアの存在などすっかり忘れられている。

かといってナタリアは、アリスを恨んでなどいない。

ひたすら怖いだけである。

彼女の持つヒロイン力は、やがて何もしなくともナタリアを悪役令嬢に仕立て、破滅へと導くだろう。

リシュタルトだってそうだ、アリスが現れてからというものまったく音沙汰がない。

きっと今頃は、アリスの虜になっているのだろう。
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