悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!
五歳を過ぎた頃には、ナタリアは獣操師になるための知識をかなり蓄えていた。

だが、知識ばかりで、いまだ獰猛化した獣を一度も見たことがない。

獣保護区にいる獣たちはしっかり調教されているため暴れることはない。

ナタリアが来るとより大人しくなるというから、獰猛化の瞬間を見ることなどまずなかった。

いつからかナタリアは、獣操師になる身として、野生の、獰猛化した獣を見てみたいと強く思うようになる。

そんなある日のこと。

「ナタリア!」

大庭園の一角、大理石の噴水脇のベンチで獣関連の書物をよみふけっていると、兄レオンの声がした。

ナタリアは、本を慌てて別の書物の下に隠す。

「こんなところにいたのか、ずいぶん探したぞ」

十二歳になったレオンは、よりいっそうキラキラ王子様感が増していた。

金色の髪は輝くように美しく、アイスブルーの瞳はきりりと精悍である。

「お兄さま。もう学校は終わったのですか?」

「ああ。学校では塀越しに女にジロジロ見られて落ち着かないよ。お前と一緒にいる方がずっといい」

レオンは今年から、高位貴族の子息が通う貴族院に入学した。令嬢とは通学時にすれ違うだけにも関わらず、かなりモテているらしいが、女の子にはまったく興味がないようだ。

ギルはナタリアの隣に腰掛けつつ、きょろきょろと辺りを見回した。

「今日はあいつはいないのか?」

「あいつとは?」

「あのずる賢そうな家庭教師だよ」

眉をしかめながらレオンが言う。

「ああ、ギルのことですね。一日中一緒というわけではありませんので」

「そうか、それはありがたい。こうやって久々にナタリアを独占できるんだからな」

「お兄様は、ギルが苦手なのですか?」
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