悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!
圧倒的な強さを持つ狼を前に、村人たちが敵うはずもなかった。

腕や足を噛まれ、次々と戦闘不能になり、その場で悶えはじめる。

獣化した父の華麗な身のこなしに、ナタリアも目を奪われていた。

寸分の無駄もない動き。

月灯りの中で銀色の毛を煌めかせながら闘う姿は、心奪われるほど美しい。

だが、それがいけなかった。リシュタルトに見惚れるあまり、腕の力が緩んでしまったらしい。

「よし! 捕獲したぞ!」

ナタリアが気を抜いていた隙に、若い男が腕の中から子ドラドを取りげ、乱暴に袋に入れてしまった。

子ドラドが袋の中でじたばたと暴れている。

「クウ―ッ! クウーッ!」

「待って!」

ナタリアは急いで立ち上がると、男の腕に必死に袋にしがみついて、子ドラドを奪い返そうとした。

だが男は袋を大きく振ってナタリアを振り払う。

ナタリアの小さな身体はあっけなく弾け飛び、勢いよく地面に叩きつけられてしまった。

腰を強く打ったせいで、立ち上がりたくとも力が入らない。

そうこうしている間に、子ドラドを入れた袋を持った男はどんどん遠ざかっていく。

「どうしよう……」

不甲斐なさから、目にみるみる涙が溜まっていく。

すると、頭にあたたかな感触がした。

「泣くな、ナタリア」

いつの間にか人間の姿に戻ったリシュタルトが、地面に倒れこんだナタリアの前に膝間づき、頭に手を置いている。
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