溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~

「お電話ありがとうございます、桐ケ谷エステート営業一課です」

 八月上旬の午後。社会人二年目の私、早坂(はやさか)悠里はいつものように、勤務先の不動産会社、桐ケ谷エステートのオフィスで電話応対をしていた。

 桐ケ谷エステートは関東圏で最大手の不動産会社。私が勤務しているのは都心にある本社で、他にも関東を中心に二百五十もの店舗がある。

 広々とした営業部のオフィスの端、ここ営業一課では主に賃貸のマンションや住宅を扱っていて、私は営業の社員たちを陰ながら支える営業事務の仕事をしている。

「物件のお問合せですね。かしこまりました。担当者に代わりますので、少々お待ちくださいませ」

 電話の保留ボタンを押し、ちょうど営業から帰ってきた先輩の男性社員に声を掛ける。先輩が自分のデスクで電話を取るのを確認した私は、パソコンに向き直って途中になっていた事務作業に戻った。

 八名いる営業一課のメンバーのうち事務員は私だけなので、やることは常に山積みだ。

 本当はもうひとり女性の先輩がいたのだけれど、現在育休中。まだひよっこの私は毎日いっぱいいっぱいになりながら、目の前の仕事から順にこなすしかない。

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