溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~
「じゃ、部長のためにも落ち込んでる場合じゃないわね。なんとしてでも定時に帰らないと」
「そうですね。今自分のできることを最大限に頑張ります」
今日はひとつ、維心さんに大事な報告がある。昨日の健診で判明した、赤ちゃんの性別だ。
私個人は男の子でも女の子でもうれしいのだけれど、彼、というか桐ケ谷家にとってはそうではない可能性がある。
私のお腹にいる子は、女の子だ。維心さんの反応が、少しだけ怖い。
「維心さん!」
待ち合わせしていた会社のエントランスに彼の姿を見つけると、私は遠くから彼を呼び、手を振った。
スマホに視線を落としていた維心さんが顔を上げ、ふっと目元を緩める。
出張の多い彼との生活にはだいぶ慣れたし、前のように彼の心が見えなくなるような不安はない。それでも数日ぶりに会えるのはやっぱりうれしくて、心が弾む。
早くそばにいきたくてつい早足になり、そのうち小走りになり、あと数歩で彼に手が届きそう、というところで、私はなにもない床につまずいた。