溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~
「そうは言っても心配だから、今から向かうよ。なにか必要なものは?」
その時ふと、電話の相手と話す維心さんの声に、少しの深刻さが滲んでいるのに気がつく。それに、今からどこかへ外出するようだ。
「わかった。道が空いていれば十五分くらいで行けると思う。じゃ、後で」
そんな会話を最後にスマホを耳から離した彼は、焦った様子で私に歩み寄ってきて告げた。
「父が家の階段から落ちて骨折したらしい。病院に付き添っている母親からの電話だった。命に別状はないし骨折自体も軽いようだが、心配だから顔を見てくる。悪いが、留守番を頼めるか?」
「もちろん、行ってあげてください。私なら大丈夫ですから」
「ありがとう」
親というのは、いつまでも元気でいてくれるわけではない。私は身をもってそれを知っているから、どんなに軽い怪我でも、心配なら会いに行くべきだ。ご両親だって心強いはず。
「悠里は先に寝ていて構わないから」
「はい、お気をつけて」
その後、慌ただしく支度を済ませた彼を玄関で見送っていると、維心さんはドアを開けたにもかかわらずなかなか出て行かず、くるりと踵を返して戻ってきた。
「忘れ物ですか?」