溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~
思わず布巾でシンクを拭き上げていた手を止め、ゆったり室内を歩きながらタオルで髪を拭く維心さんに釘付けになる。
すると、彼の視線が不意にこちらを向いた。それからゆっくり、私のもとへ歩いてくる。
やばい。見つめすぎた?
今さらながらも目線を自分の手元に落とし、シンクを拭く作業に集中するフリをする。
この作業が終わってしまえば、後は寝る準備をしてベッドに移動するだけ。心の準備は、まだ全然整っていない。
それでも維心さんのスリッパの足音は徐々に近くなってきて、鼓動が忙しく暴れる。
「悠里、片づけが終わったら――」
彼がそう言いかけた瞬間、室内に軽やかな着信音が響いた。鳴っているのはリビングのテーブルに置かれた維心さんのスマホで、彼は一旦話をやめて私から離れていった。
「もしもし?」
維心さんが電話に出るのを横目に、ホッと胸をなで下ろす。
だけど、彼が電話している間少し猶予が与えられただけだ。どう足掻いても今夜ベッドを共にすることは避けられないんだから、腹をくくらなきゃ。