溺愛過多~天敵御曹司は奥手な秘書を逃さない~
少しだけできた空間の中で、私はわずかに上体を起こし、足をバタつかせて後ずさった。
一つでも答えたら、無理やり引き摺り出された黒歴史を、認めることになってしまう。
だけど、貞操の危機に直面しては、そんなこと言ってる場合じゃない。


「り、理由は、あの時ちゃんと言いました!」

「え?」


聞き返す声は、口元を隠す、彼自身の大きな手に阻まれくぐもった。


「私はあの頃、父の命令で、二十五歳も年上の男性と、政略結婚することになってました。だから、そうなる前に……!!」


屈辱的な思いで、返答した。
悔しくて、それ以上の羞恥で、心臓がドキドキと拍動を速め、私は身を震わせる。
なのに。


「それは、知ってる」


社長は素っ気なく言って、口からゆっくり手を離した。
下唇に薄い血を滲ませ、クッと眉根を寄せると……。


「俺が聞きたいのは、どうして俺だったのか」

「っ、え?」

「どうして、友人でも恋人でもセフレでもない俺に、抱かれたかった?」


一瞬前までとは別人のような、鋭く真剣な瞳で射貫かれ、私はこくりと喉を鳴らした。
なかったことにしたい、抹殺したいほど最悪な黒歴史。
心の奥底まで暴くような質問に引き摺り出され、私の胸にまざまざと蘇ってくる――。
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