溺愛過多~天敵御曹司は奥手な秘書を逃さない~
十年前。
今日と同じく梅雨明けしたばかりで、ムシムシと蒸し暑かった七月中旬。
名門私立大学の社会学部二年生だった私は、法学部の四年生だった柏木(かしわぎ)奏哉(そうや)に……。


『わっ……私を、抱いてくださいっ……!!』


体当たりで、お願いした。


『……は?』


突然、見ず知らずの女子学生に呼び止められ、最初から訝しげだった彼の美しい顔が、ますますの不審で歪む。
最後は、別の生き物を見るような目つきに変わった。
前期試験もほとんど終わっていて、夏季休暇目前の広いキャンパスに学生の姿は少なく、日当たりのいい中庭には、私と彼以外に誰もいなかった。
とは言え、私のなりふり構わない捨て身の特攻は、彼の意表をついたようだ。


『ええと……平川さんって言ったっけ? 社会学部二年の』


体当たりの前、ほとんど吐き出す勢いで告げた自己紹介を、ちゃんと耳に留めていてくれた。


『はいっ』

『無駄にいい返事しなくていいから』


彼は頭痛を抑えるように額に手を遣り、両方の目頭を指でグッと押す。


『自分が、なにを言っているか、わかってる?』


手を離しながらちらりと視線を流され、私は条件反射でピンと背筋を伸ばした。
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