溺愛過多~天敵御曹司は奥手な秘書を逃さない~
「っ……」


スラッとしたスレンダーな見た目からは想像もできない、引き締まった逞しい胸板を披露されて、私は息をのんだ。


「ワイシャツ代金だと思って、大人しく……ん?」


乱れて額に落ちた黒い前髪を、ブルッと頭を振って払ってから、彼が私を見下ろしてくる。


「そんなに見つめられると、照れるんだけど」


からかい混じりにニヤッと笑われ、私は弾かれたように顔を背けた。


「見つめてません。私はワイシャツ一枚程度の価値かと、腹立たしく思ってただけです」


ドッドッと、太鼓の乱れ打ちのような拍動を繰り返す胸を手で押さえ、必死に虚勢を張って憎まれ口を叩く。
頭上で、「ふん」と鼻で笑う声がした。


「君は以前、俺に無償で抱かれようとしたじゃないか。忘れたとは言わせないよ?」


私の反応を面白がっているのか、妙に楽しげに弾んだ口調。
さすがに、グッと言葉に詰まる。
私は、首が捩れるくらい横を向いて、奥歯を噛みしめた。
記憶を抉るように掘り返されなくても、恥ずかしすぎて忘れたくても忘れられない、私の人生最大の黒歴史だ。


「こっち、向け」


尊大な命令と共に、顎を掴まれた。
強引に正面を向かされ、私を跨ぎ、長い四肢で囲い込んでいる彼と、バチッと目が合う。
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