あの日、小猫と出会ったから
「……んだよ、一体」
 額に手を当て、ゆっくり息を吐く。
 あんな事無かった。全く記憶に無い。なのに、薄気味悪い既視感を感じている。
「慣れないことはするもんじゃないな」
 いつもと違うからだ。尋問されそうになったり、王太子と対面したり、緊張の連続だったから。だから変な夢を見るんだ。
 もう一度横になり、掛布の中に潜って繰り返した。大丈夫、あんな事は無かった。ただの夢なんだ。だから大丈夫……
「ジェイミー」
「うわあぁ!」
 背後から聞こえた声に飛び起きた。振り返ると、びっくりしているシェリフが俺を見つめていた。
「どうしたの、ジェイミー」
「そそ、それは俺の台詞だ!」
 鼓動が再び走り出す。苦しくなって胸を抑えた。
「ジェイミー、大丈夫?」
 震えが止まらない。息が止まるかと思った。あの気味悪い目が後ろに居るのかと思って……。
 余程怯えた顔をしてたんだろう。シェリフは、俺の手をきゅっと握って謝った。
「ごめん、驚かせるつもりじゃなかったの」
 温かい掌。氷が溶けるように緊張が解けていく。申し訳なさそうに目を伏せる小猫に、溜息をついて苦言を吐いた。
「せめてノックくらいしろよ」
「ごめん」
 シェリフはパジャマ姿だった。恐らく、先生達の目を盗んで出てきたんだろう。
「ほら」
 隣を空けてやる。小猫は上目遣いで俺を見て尋ねる。
「いいの?」
「そのつもりで来たんだろ」
 小さく頷いて、シェリフは俺の隣にもぐりこんだ。
「ありがと……ジェイミーといると、落ち着くの」
「そりゃ良かった」
 いきなりな登場には死ぬ程驚いたけど、シェリフが来てくれたのは俺としても有り難かった。隣に誰かが居る。それだけで、不安が半減する。アークさんに見つかったら大目玉だろうけど。
「先生、大分怒ってたか?」
「うん」
 言葉少なに答え、シェリフは俺の腕にしがみついた。
「どうした?」
「何でもない」
「嘘つけ」
 髪をぐしゃぐしゃにしてやる。
「やせ我慢すんな。好きなだけ泣けよ」
「泣いてないもん」
 言ったそばからくすんとハナを啜る。この意地っ張りめ。
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