あの日、小猫と出会ったから
「先生に、ね」
「うん」
「貴方はレシュノルティア王家の恥ですって言われたの」
「厳しい先生だな」
「貴方には王子としての自覚が無いって。リクニスの方がまだ自覚あるって」
「誰だ、リクニスって」
「四つ下の弟」
 シェリフ、弟居たのか。てっきり末っ子だと思っていた。
「学院の先生も問題児だって言ってたし……僕は、何をしてもダメなんだ。みんなの言う通り、クズで、出来損ないなんだ。僕なんか……」
 シェリフはそこで言葉を止めたのに、続きが聞こえた気がした。
『居ない方が良いんだ』
 理由の無い不安に駆られて、思わず起き上がった。シェリフも起き上がり、顔を歪めて泣く。
「ねえ、ジェイミー」
 小猫は大粒の涙をぽろぽろ零しながら問う。
「王子の自覚って何? 分からない僕は、やっぱりおかしいの? どうしたら普通になれるの? どうして、僕は……」
 そう言って泣きじゃくる第二王子の肩を抱き寄せ、宥めるように頭を撫でた。
「もう、分かんない……どうしたら良いか……」
 そういえば、最初に会った時も同じ事言ってたな。どうしたら良いか分からない、って。
 シェリフは俺にしがみつき、呻くように小さく呟いた。
「もう、全部、嫌だ……」
 こちらまで切なくなるような声で、小猫は苦しそうに嗚咽する。
 窓枠の中に、月が姿を現した。
 今は、何も言わない方が良いだろう。何を言うべきかも、立場の違う俺には分からない。シェリフが抱えているもの全てを完全な意味で理解してやることは、同じ立場に居る家族にしか出来ない。俺に出来るのは、好きなだけ泣かせてやる事くらいかもしれない。
 俺は黙って小さな背中をさすった。少しでも楽になるようにと願いながら。
 やがて、シェリフは泣き疲れてそのまま眠った。起こさないようにそっと横にならせ、明りを落とし、俺も横になる。
 窓の外、月明かりがポプラ並木の輪郭を蒼く縁取っていた。
 忍び寄る不安を、小猫の温もりが追い払ってくれた。
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