恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「じゃあ、それにするか!」

「うん!」

 男の子が選んだのは、オレンジのバラだった。
「“絆”や“幸多かれ”の花言葉のほかに“無邪気”というのもありますし、喜ばれると思いますよ」と店員の女性が説明しているのを聞いて、親子はニコニコしていた。
 大きな花束ではなく数輪だったけれど、そのほうが子どもらしいし、ママはきっとうれしいはずだ。

 そんな家族の様子を勝手に想像していたら、少しばかり羨ましくなった。
 私の両親は仲は悪くなかったけれど、父は記念日やプレゼントに(うと)く、母が父になにか貰った話は聞いたことがない。
 私と妹にも、誕生日月にはお小遣いを上乗せしてくれるだけで、当日のお祝いはすべて母がしてくれていた。

 父だって祝いたい気持ちはあっただろうし、さすがに文句まで言うのは贅沢だから、子どものころからそれに対して不満を口にしたことはなかった。
 でも心のどこかで、先ほどの親子のような家庭に憧れがあったのかもしれない。

 反面教師なのか、私は友人への誕生日プレゼントやお祝いはきちんとする性格になった。サプライズも好きだ。
 自己満足だと言われればそれまでだが、単純に相手の喜ぶ顔が見たい。

 もし私が将来結婚して、家族ができたなら……
 良いシーンばかりを妄想してしまうけれど、その前に傷つくことが怖くて恋愛ができないのだから、家庭を築くなんて夢物語だ。

 そういえば、副社長はお母様に母の日の贈り物をしたのだろうか。
 この前いただいたオーガニックの紅茶を家で飲んでみたら、鼻に抜ける香りが本当に良く、後味がすっきりとしていておいしかった。

 もっと上手に淹れることができたら、さらにあの紅茶の良さがわかるのに。
 そんな思いから、私は最近ネットで蒸らし時間など、淹れ方を調べるようになった。
 紅茶は奥が深く、最終的には自分で茶葉を厳選し、好みに合わせてブレンドできるようになるのが目標だ。

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