恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
***

 五月に入ると気温の高い日が多くなった。
 今の職場に異動になったころは真冬で、吐き出す息が白いくらい寒かったのに。すっかり季節が変わってしまった。

 職場で着る夏用ブラウスとスカートを購入したくて、土曜日のこの日、私はデパートへ足を運んだ。
 お天気が良いのもあり、家族連れなどの人波で混雑している中、私は目当てのものを買ったあとにブラブラと街を歩いた。

 暑いし紫外線が強い。ていねいに日焼け止めを塗ってきたらよかったと軽く後悔していると、ふと街角の花屋に目が留まる。

「パパ、こっちがいい!」

 五歳くらいの小さい男の子がパパと来ていて、花を選んでいた。

「えー、赤い花のほうがいいよ。どれか赤いの選んで?」

「なんでー? ママにはこれなの!」

 そうだ、明日は“母の日”だった。私も先週、宅配便で母にプレゼントを送る手配を済ませたのを思い出した。
 こんなに小さい子がママに贈り物をする姿は、胸がキュンとする。
 パパは固定観念なのか母の日には赤い花が適切だと思っているようだけれど、男の子はお構いないしに、ママに似合う花を選びたいらしい。

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