バーテンダーに落ちて酔わされ愛されて
「なにそれ。矛盾してない?」
「そうだね、幸せだけど心配ばっかして不安になったり安心したり大変そうってこと」
びしっとショーマを指させば「それアヤナにも言えることだと思うんだけど」と返されて、なんで?と首を傾げれば別に気にしなくていいよ、なんて余計気になるような返事の返され方をした。
なんで教えてくれないわけ。減るもんじゃないのに、ショーマのケチ。
「それより、やっぱり俺と付き合わない?」
「何言ってんの、冗談はもう終わり」
「嘘だと思ってんの?」
「嘘って言うより、慰めでしょ?」
だってほら、あたし昨日からずっとテキーラ・サンセットばっか飲んでるから。
だから気を使ってあんな冗談なんか言ってくれたんだって分かってるよ。
「あぁ、気づいてた?ならあの男のことはすぐ忘れた方がいいよ」
…って、慰めてくれたと思ったら次はそれ?
もう本当に慰めてくれる気あるの?
そうだね、なるべく早く忘れるようにするよと返してショーマおまかせのカクテルを流し込んだ。
ん、これも美味しい…初めて飲んだ。
「ショーマこれなんて名前?」
実はあたしカクテルに詳しいわけじゃなくて、全部ショーマに訊いて教えてもらってる。
「アプリコットフィズ」
アプリコットフィズ、まだ飲んだことのないお酒。
度数は弱く、甘い香りに口当たりがいいし、清涼感があって飲みやすくなっていてあとを引くような味わい。
「ねぇねぇ、これには何の意味があるの?」
名前とかそのカクテルの意味とか、興味本位で知りたがるあたしにちゃんと教えてくれるけど、
「秘密」
何故か今日は教えてくれる気がないらしい。
そのあとも2度教えてよ、と言ってみたけど口を開けば出てくるのはやっぱり「内緒」とか「アヤナには教えない」と言った言葉で、どうしてそこまでして教えてくれないのか逆に分からない。
そのせいであたしはムッとした。
「いいもん、後で自分で調べるし」
脳内に“アプリコットフィズ”と名前をインプットしてお酒をあおると、ショーマは別のお姉さんに呼ばれて離れていってしまった。
行っちゃった…もうちょっと話していたかったのに。
そう思っても彼もこれが仕事。あたしの気分でこっちにいてだとかお姉さんたちのとこに行って来たら?だとか振り回しちゃいけない。
21にもなってそんなことするなんて子供だと思われちゃう…って、ショーマからしたらあたしはいつまでたっても妹のような存在だろうけど。
クッとグラスを傾け飲み干すとコースターに5000円を挟んでショーマにバイバイと言ってお店を後にした。
ま、お姉さんとお話し中で聞こえてなかっただろうけど。
アヤナが店内を出て行った後、アヤナがいた席に戻ったショーマは空のグラスにコースターに挟まれた5000円札を見てアヤナが帰ってしまったことを知った。