バーテンダーに落ちて酔わされ愛されて
「ただいまーって、あれ…ショーマは?」
お手洗いから戻ると部屋にはマユしかいなくて、ショーマの姿はなかった。
あ…ショーマの匂いだけは残ってる。
ショーマが普段から使っている香水は2年前あたしがプレゼントしたもので、それをずっと愛用してくれているんだ。
「ショーマさんは仕事に戻ったよ」
「そっか」
忙しいのにわざわざパスタ作ってくれたり、カクテル作ってくれたりとありがたいな…。
「ショーマさんが気になる?」
突然そんなことを訊いてくるもんだから「は?」なんて言葉と共に変顔レベルに変な顔をしてしまった、と思う。
「なんで?」
ショーマが気になるなんて、そんな事一度も訊いてこなかったのに急にどうしたんだろう。
「んー、なんとなく」
なんとなくって、なんて適当な。
「気になるって言うか、今日はちょっと元気ないなーとか?」
「え、元気ないの?」
「うん。笑い方とかでね、なんとなく分かる」
何それエスパーかよって言うマユだけど、自分でもなんで分かってしまうのか分からないからどうして?なんて問われても答えようがないからね。
長年一緒にいるからその勘としか言いようがない。
「へぇ~」だとか「ふーん」だとか、マユから訊いてきたのに特別そんなに興味はありませんみたいな顔をしていて何なんだこの子、と思いながら酒をあおった。
「あ、そうだ」
何を思い出したのか、マユはすぐさま別の話題をしようとしていて…女子は話題が尽きないなぁ、と自分も同じ女でありながらそんなことを思った。
「ショーマさんって2年アメリカに行ってたんだよね?」
「うん、そうだよ」
ショーマはあたしが高校を卒業する前に修行に行くと言って、アメリカに2年間バーテンとしての勉強や技術を学び磨いてきた。
その腕前は世界大会に出れるほどの実力となって帰ってきていてビックリしたものだ。
「私の知り合いにもさ、技術を磨くためにアメリカに行ってるんだけどレベルが高すぎるしショーマさんの名前を出せば誰でも知ってるらしいよ」
「え、ショーマ本当に有名なんだ」
別に疑ってるわけとかじゃないけど、ショーマは大会とかにも一切出ないし、あたし自身カクテルはショーマのものしか飲んだことがないからどれくらいレベルが高いだとかショーマがどれほど名が知れているのか全然分からない。
だからこうして話を聞くのは新鮮なんだ。
「アンタ本当に知らないよね」
「うん、まぁ」
そういうのに疎いのもあるかもしれないけど、興味がないってのも大きく影響している気がする。
「あの若さで世界レベルの技術に、それをたった2年で習得したんだよ!?すごくないわけがないの!」
「そ、そう…なんだ」
「アヤナ、本当分かってない」