おじさんには恋なんて出来ない
────辰美さん、大丈夫かな。
駅のホームに佇みながら、美夜はため息をついた。
あれ以来辰美と話せていない。忙しいのか、メッセージのやり取りだけだ。元妻とはどうなったのか、その後連絡は来たのか。
気になることは山ほどある。だが、いまだにないも言えないでいた。
美夜に届いた手紙はあの一通だけで終わった。けれど、ポストを見るたびにドキドキしてしまう。だから余計に嫌な想像をしてしまった。
────辰美さんが奥さんと寄りを戻したから、手紙が来なくなったの?
年が明けてからスケジュールは忙しくなったのにどこか上の空だ。これからストリートに行くのに気が引き締まらない。
「ん……?」
その時だった。コートのポケットに入れたスマホが震え始めた。美夜はポケットからスマホを取り出して眺めた。
────辰美だ。辰美からの電話だ。すぐに通話ボタンを押した。
「はいっ、もしもし」
『美夜……』
電話の向こうの辰美はどこか急いでいるような、焦っているような様子だった。
「辰美さん……?」
『最近、連絡できなくて済まなかった』
「いえ……忙しい時もありますから、仕方ないですよ」
そう言いながらも心底ほっとした。辰美に愛想を尽かされたわけではなかったのだ。
気にしていないふりをして、精一杯明るく振る舞った。
『……駅にいるのか?』
駅のアナウンスが聞こえたのだろう。
「はい。これからストリートに行くんです」
不自然な沈黙が数秒続いた。やがて「美夜、最近何か変わったことはなかったか」と言った。
「え……」
もしかして辰美の元妻のことだろうか。美夜は答えようかどうか迷った。言うと告げ口みたいに聞こえないだろうか。
「……何かあったんだな」
辰美の口から聞いたことがないような低い声が出た。もしかして、辰美は知っているのだろうか。
「実は……手紙が」
ホームに電車の発着音が鳴り響いた。
「ごめんなさい、電車が来たみたいです。ストリートが終わった後連絡します」
『美夜、待ってくれ。すぐに話さないといけないことが────』
大きなブレーキ音とともに電車がホームに停る。自動扉が開くと後ろから列が押し寄せてきた。
「ごめんなさい! また終わったら連絡します!」
美夜は慌てて電話を切った。
人の波に押されて電車の中に押し込まれる。タイミングの悪いことだ。せっかく話せそうだったのに────。
駅のホームに佇みながら、美夜はため息をついた。
あれ以来辰美と話せていない。忙しいのか、メッセージのやり取りだけだ。元妻とはどうなったのか、その後連絡は来たのか。
気になることは山ほどある。だが、いまだにないも言えないでいた。
美夜に届いた手紙はあの一通だけで終わった。けれど、ポストを見るたびにドキドキしてしまう。だから余計に嫌な想像をしてしまった。
────辰美さんが奥さんと寄りを戻したから、手紙が来なくなったの?
年が明けてからスケジュールは忙しくなったのにどこか上の空だ。これからストリートに行くのに気が引き締まらない。
「ん……?」
その時だった。コートのポケットに入れたスマホが震え始めた。美夜はポケットからスマホを取り出して眺めた。
────辰美だ。辰美からの電話だ。すぐに通話ボタンを押した。
「はいっ、もしもし」
『美夜……』
電話の向こうの辰美はどこか急いでいるような、焦っているような様子だった。
「辰美さん……?」
『最近、連絡できなくて済まなかった』
「いえ……忙しい時もありますから、仕方ないですよ」
そう言いながらも心底ほっとした。辰美に愛想を尽かされたわけではなかったのだ。
気にしていないふりをして、精一杯明るく振る舞った。
『……駅にいるのか?』
駅のアナウンスが聞こえたのだろう。
「はい。これからストリートに行くんです」
不自然な沈黙が数秒続いた。やがて「美夜、最近何か変わったことはなかったか」と言った。
「え……」
もしかして辰美の元妻のことだろうか。美夜は答えようかどうか迷った。言うと告げ口みたいに聞こえないだろうか。
「……何かあったんだな」
辰美の口から聞いたことがないような低い声が出た。もしかして、辰美は知っているのだろうか。
「実は……手紙が」
ホームに電車の発着音が鳴り響いた。
「ごめんなさい、電車が来たみたいです。ストリートが終わった後連絡します」
『美夜、待ってくれ。すぐに話さないといけないことが────』
大きなブレーキ音とともに電車がホームに停る。自動扉が開くと後ろから列が押し寄せてきた。
「ごめんなさい! また終わったら連絡します!」
美夜は慌てて電話を切った。
人の波に押されて電車の中に押し込まれる。タイミングの悪いことだ。せっかく話せそうだったのに────。