とろけるような、キスをして。



「みゃーこは変わらないな」



 信号待ちでそうこぼした先生に、



「……先生もね」



と小さく返す。



「俺?どの辺?」



 まさかそこを掘り下げられると思っていなくて、



「……優しいところ」



なんて、ありきたりな言葉しか言えなかった。


 しかし、先生は嬉しそうに



「でもそれは今も昔もみゃーこにだけだな」



と、私の頭に手を伸ばしてくしゃくしゃと撫でる。



「え?」


「……俺、普段はそんなに優しくないよ?」


「でも、昔から先生は優しいって有名だったよ」


「んー、それはあくまでも教師だから。でもこうやってプライベートでも優しくしたいと思うのは、みゃーこだけかな」



 ボサボサになった髪の毛を戻すことも忘れて、その言葉の意味を考える。


しかし、よくわからなくて。



「……それって、どういう意味?」



 聞くものの、先生は



「さあね」



と嬉しそうにはぐらかす。


 もう一度聞こうにも、先生はオーディオから流れる今流行りのバンドの音楽を口ずさみ始めてしまった。


つまりそれ以上は答えてくれる気は無いんだ。そう悟り、私もまた諦めて車窓に目を向けた。


 ……そっか。先生、独身なんだ。彼女もいないんだ。


 段々と懐かしく見慣れた街並みに変わる景色を見つめながら、何故だか緩みそうになる口元を引き締めるのに必死だった。


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