とろけるような、キスをして。



「ここだっけ?」


「うん。ここ。中に停めていいよ」


「おっけ」



 実家の敷地内に車を駐車してもらい、二人で降りた。


木造の三階建ての実家。


先生は家を見上げて「デカイ家だな」とこぼす。



「ちょっと片付けもしたいから、中入る?」


「いいの?」


「うん。今誰も住んでないし。大丈夫だとは思うけど、もし虫とかいたら退治してくれると助かる」


「虫退治要員……まぁいいか。お邪魔します」



 久しぶりに開ける鍵。


ガチャリと懐かしい音を立てて開いた扉。



「……ただいま」



 反射的にこぼした声に、返事は無い。


 昔は広く感じたガランとした玄関を通り抜け、リビングの扉を開ける。


薄暗く感じて電気をつけようとするものの、パチンと音が鳴るだけで明るくならない。


そういえば電気は止めてあるんだと気が付いて、諦めて中に入った。



「ごめんね。電気も水道もガスも止めてるの忘れてた。トイレとか大丈夫?」


「うん。大丈夫」


「行きたくなったらそっちにコンビニあったはずだから行ってきていいからね」


「ありがとう」



 リビングやお風呂場、物置など、家の中を一通り確認すると、思っていたよりも埃は被っていなかった。


晴美姉ちゃんのお母さんがたまに掃除してくれているとは言っていたから、多分そのおかげだろう。


式で会った時にもっとちゃんとお礼を言っておくべきだった。


 最後に入った三階の自室で、両親と映る家族写真が写真立てに飾られているのを見つけた。


 ……懐かしいな。


 それをそっと手に持って、埃を払った。


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