とろけるような、キスをして。



 最近、私と修斗さんのことが校内で噂になり始めているのは知っていた。



"深山先生が事務の女性を車に乗せていた"


"深山先生が急にお弁当を持ってくるようになった"



 そんな噂から始まり、



"事務の女性はうちの卒業生で深山先生の教え子"



なんて噂も広まっている。


 たまに一緒に帰っているらしいとか、デートしたところを見たとか、
他にも細かい噂はあれど、大きく分けるとそんな感じのものだ。


別に、そんな噂は私も修斗さんも気にしていない。


 所詮は噂。何が合っていて何が間違っているかだなんて、私と修斗さんしかわからないのに。
憶測だけでものを言って、どんどん広まっていく噂を気にしていたらキリが無い。


しかし修斗さんの車で送ってもらったことは数回ある。軽率な行動をしてしまったのは事実だ。


 しばらく修斗さんと一緒に帰ったり、ましてやデートなんてできないだろう。


 教師という職業は、本当にプライベートが無いものだ。


とは言え、さすがに"事務の女性が学生だった頃から二人は付き合っている"という噂が流れた時は修斗さんも否定したと聞く。


 教員としてそれはあってはならないから、当然だろう。
そんなことを考えていると、意を決したようにか細い声が



「……あの」



と響く。


 その声に、いつのまにか窓の外に向いていた視線を戻した。


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