とろけるような、キスをして。



 逆に言えば、寂しさを感じる余裕が生まれたということで。それはそれで仕事にも慣れて環境にも慣れて、喜ばしいことなのかと思う。


人によっては、この孤独が心地良いと思う人もいるのだろう。


誰からも干渉されない、自由な生活。そう思って謳歌する者もいるのだろう。


 寂しさなど感じない。一人が好き。そういう人も、もちろんいるだろう。


しかし、今の私にはその寂しさが無性に苦しくて。つらくて。


 寂しさから逃げ出したくて上京したのに、実家に一人でいた時よりも重い孤独が私にのしかかる。いつしかそれに押し潰されそうになっていた。


 そんな時に来た、晴美姉ちゃんからの結婚式の招待状。


たった二日でも、帰るきっかけができる。


晴美姉ちゃんに会える。それだけでも、飛び上がるほどに嬉しかった。



「ねぇ、先生?」


「……ん?」


「……もし、もしもだよ?」


「うん」


「……私が……この街に帰って来たい。……って言ったら、どうする?」



 先生の目は、見ることができなかった。


自分から逃げるように街を出て行ったくせに、今更何言ってるんだって。そう言われてしまうのが怖くて。


お前の帰る場所なんてどこにも無いって。先生にそう言われてしまったらもう立ち直れない気がして。


 でも、もう限界だった。


久しぶりに帰省して。懐かしい香りに懐かしい空気。今は誰もいないけれど、確かに両親がそこにいたことがわかる実家。


見れば見るほど、東京に帰りたくない。そう思ってしまった。


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