とろけるような、キスをして。



「……別に、大したことじゃないんだけど」


「うん」


「……仕事、辞めようかな……って、思ってて」


「仕事?東京の?」


「うん。事務職してるんだけどね。……ちょっと、なんていうか……、しんどくなってきて」


「うん」



 人間関係は別に悪くないし、仕事だって普通に充実してる。給料も特別低いわけじゃない。


何かパワハラを受けているわけでもないし、福利厚生だってしっかりしている中小企業の正社員だ。


この不況のご時世にしては恵まれている環境にいるのは自負している。


 ……なのに、最近心が苦しい。


 それにはっきりとした理由なんて無くて。でももう限界が近いのが、自分でもわかる。


強いて言うならば。



「……なんか、寂しくて」



 上京した頃は、毎日が生きることに必死で、寂しさなんて感じている余裕すら無かった。


 初めての都会。初めての気候。初めての仕事。初めての狭いアパートでの一人暮らし。


慣れない環境の変化に、体調を崩したことも何度もあった。


その度に、体調の悪さをひた隠しにして出勤してはミスを連発して、ふらふらしながら叱られて倒れそうになった日もあった。


 今考えると褒められたことじゃないけれど、あの時の私はただ必死で。そんな日々を乗り越えて、今までやってきた。


そしてふと気が付いた時。


猛烈な孤独と寂しさに襲われてしまった。


< 25 / 196 >

この作品をシェア

pagetop