とろけるような、キスをして。



 広いベッドに寝転んで、目を閉じる。


 ……来るのが怖くて仕方なかったこの街。先生のおかげで、とても有意義な一日を過ごせた気がする。


もちろん苦しくなったり切なくなったり、感情の変化は忙しなかったけれど。



「……泣いたの、何年ぶりだろ……」



 思い出せないくらい、遠い昔のような気がした。


 記憶を探す旅に出ていると、枕元に投げたスマートフォンが通知音を奏でる。


一気に現実に引き戻されたものの、画面を見て口角を上げた。


 それはさっき別れたばかりの先生からのメッセージで。



"今日は夜冷えるらしいから、あったかくしてゆっくり寝ろよ"



 ニンジン柄の布団に包まるうさぎのスタンプと共に、そんな言葉が送られてきた。



「ふふっ……何この可愛いうさぎ。チョイスが女の子じゃん」


"わかった"



 そう返事をして、りすが敬礼しているスタンプを送り返す。


 その後もしばらく他愛無いやりとりを繰り返して。


日付が変わる頃に、慌ててお風呂に入って寝るのだった。



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