茨ちゃんは勘違い
それは、なんと形容していいものなのか。
 楽譜に乗っていた音符達がオタマジャクシに形を変え、成長し、蛙になり、楽譜から逃げ出したとしか思えない。
 ロックだと思ったら演歌で、演歌だと思ったらレゲェのようで、レゲェだとおもったら軍歌だったような。
 この場にメトロノームがあれば、不規則な動きをしだすに違いないリズム感は、最早不整脈の患者がいたならば即死し、飛ぶ鳥どころか、飛行物体全てを墜落させる勢いの、音痴だった。
「ぎゃはははははははははっ!!!」
 思わず爆笑する茨。
 それを見て、木更津は素早く演奏停止ボタンを押した。
「だから嫌だったんだ……」
 不機嫌そうに木更津が言う。
「あんた、下手ね~、下手過ぎ。もう、神懸ってるわ」
「放っておいてよ」
 そんなやり取りをしながら、半ば強制的に、茨は木更津に歌わせ続け、和やかにクリスマスの夜は更けていった。
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