遅咲きの恋の花は深い愛に溺れる
***

来年度に定年を迎えるシステム部門のチーム長、林部は、チームの庶務である和花を手招きしてこっそりと告げた。

「四月からの人事の話なんだけど、私はもうすぐ定年になるから新しいチーム長が来るんだ。いろいろと手続きしてくれるかな」

「はい、わかりました。どなたが来るんですか?」

「橘さん、びっくりだよ。なんとあの噂のエリートくんだよ」

和花は首をかしげる。

「ん?もしかして知らないの?入社時から話題になってたんだけど、国立大首席で卒業してTOEIC900点持ってる佐伯くんのこと」

林部は声を潜めながら和花だけに聞こえるように教えると、和花は目をぱちくりさせた。

「え、すごい人がいるんですね。どんな方なんだろう?」

「そうだねぇ。佐伯くんは結構クールかなぁ」

「クール、ですか」

「あ、でも佐伯くんはめちゃくちゃ優しいから安心して」

「クールだけど優しい?」

「うーん、何て表現したらいいかわからないなぁ。とにかく、いろいろと手続きで面倒かけるけど、橘さんよろしくね」

今のチーム長はとても優しくて気さくなおじ様タイプだ。気さくではあるけれど人に対して深く追及したりはしない。和花にとって、この距離感で仕事をするのはとてもやりやすかった。
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