堅物女騎士はオネエな魔術師団長の専属騎士になりました。
普通の令嬢であれば、いつでも参加できるように、そういったパーティー用のドレスを持っているものだ。しかしマリアベルは騎士であるため、令嬢として参加することは全くと言ってもいいほどなく、そういったドレスどころか普段着るドレスすら持っていない。
特に今回は城でのパーティーだ。既製品のドレスというわけにはいかないだろう。しかしオーダーメイドにするには10日では時間が足りない。
(まいった、どうすれば……)
頭を抱えるマリアベルにジークウェルトはさらに驚くべきことを告げる。
「大丈夫!ドレスも化粧も全部アタシが用意するわ~!一回やってみたかったのよね、全身アタシプロデュースのコーディネート!最高に可愛く仕上げてあげるから、大船に乗ったつもりで安心なさいな!」
「ええっ!?」
「そうねえ、準備することと言ったら、令嬢としての振る舞いを思い出してもらうことと、あとダンス?まあダンスはアタシがうまくリードしてあげるし、そこまで心配しなくてもいいかも」
「え、いやあの」
「10日後が楽しみねぇ~。せっかくだから楽しみましょうね!」
ジークウェルトの勢いに押されて、マリアベルはそれ以上何も言えなくなってしまった。
まさかパーティーに令嬢として参加することになるなんて思いもよらなかった。とはいえマリアベルは貴族令嬢である。全く参加しないなんてことはあり得ないのだが、少なくとも自分が現役の騎士である以上は令嬢としての参加はないと思っていた。
(……私は令嬢として、しっかりと振舞うことが出来るのだろうか)
剣を手に敵と対峙するよりも恐ろしいと感じてしまうのは、ただ単に慣れていないからか、それとも。
いずれにせよ断ることは出来ないのだ。ジークウェルトが参加する、これにはきっと意味があるのだろうから。
それから当日まで、マリアベルはマナー本と共にジークウェルトの専属騎士を務めた。
ジークウェルトが魔術の研究や机で公務に当たってる場合は、マリアベルはひたすら本と向き合う。剣の稽古は慣れたもので苦痛と感じないのに、マナーの稽古は体力も精神的なものもガッツリと削られるから不思議なものだ。
お辞儀の角度、手振り、姿勢、言葉遣い。どれも繊細さを求められる。
普段よりもヘトヘトになって、自室へ戻ればバタンとベッドに倒れこむ、そんな10日間だった。