託宣が下りました。
 騎士ヴァイスの妹ソラさんは、毎日のように修道院へ遊びに来ていました。

 けれどシェーラのことがあったり託宣の無効があったりでわたくしのほうが忙しく、このところ修道院に来ても構ってあげられないことが多かったのです。

 もちろん、実家に帰ることをソラさんには言っていません。ソラさんに言えば騎士にも伝わってしまいますから。

 でも――。

「巫女」

 ソラさんはわたくしをじっと見つめました。

 手に、抱えるほどの皮の袋を持っています。その中身が、なんだかうぞうぞと動いているような……。

「ソ、ソラさん?」

 ソラさんの目が、その年齢に似つかわしくないほど据わっていました。彼女は革袋の紐を解き――。

 その中身をわたくしに向かって、思い切りぶちまけました。

「――!?」

 チーチー、チチッ、ギギッ

 肌を這う大量のおぞましい感触、聴覚を埋め尽くす耳障りな鳴き声。すぐ隣にいたラケシスが悲鳴を上げます。

「なんだコレ!? ネズミじゃないか!」

 チーッ

 馬車の中を大量のネズミが駆け回る、異様な光景がそこにはありました。

 ソラさんは人形遣い。自分で作った人形を動かすことができるのです。相変わらずネズミならばとんでもなく精巧。わたくしは頭にネズミをのせたまま声を上げました。

「ソラさん!? どうしてこんな!」
「――よくも」

 大げさなことを言うときはいつも低いソラさんの声が、急に高い子どもの声へと変わりました。

「よくも黙って帰ったな! うわああああん!!!」

 そしてソラさんはわたくしに抱きつき、盛大に泣き出しました。(わたくしとの間に自分の作ったネズミをむぎゅっと挟みながら。)

「ソラさん……?」
「あああの、ソラちゃんはお姉さんを捜していたんです……」

 カイ様がこっそりドアの陰から顔を出し、言いました。「ちょうど今日修道院に行ったらいなかったから、ずっと捜していたんです。会いたかった、みたいです」

「――……」

 わあわあと泣きじゃくるソラさん。
 それはいたずらな人形遣いでも何でもなく、純粋な子どもの泣き声でした。

(……そんなに懐かれているなんて)

 わたくしはネズミを何匹か払いました。
 それから、ソラさんを軽く抱きしめ返しました。

「ごめんなさい。――ごめんなさい」

 他人の好意を軽んじることの罪を、重く感じながら。
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