託宣が下りました。
 わたくしは愕然としました。口が開きっぱなしになるのも許してください。
 だって、いったい誰がこんな一般人の命を国の王女が狙うだなんて考えますか?

 ありえるわけがない。そう、ありえるわけが――。

「――ありえない」

 わたくしが繰り返すと、ソラさんがむっとしたような顔になりました。

「巫女よ、そなたは自分の託宣の意味を軽く考えすぎではないのか」
「託宣の……?」

 訝しく思って眉をひそめます。あの託宣がどう王女につながるのでしょうか。たしかに『国の救世主』というフレーズは入っておりましたが、あの託宣はあくまでわたくしと騎士の問題で……。

(……騎士?)

 次の瞬間、わたくしは飛び上がるほど驚きました。自分の、とんでもない思いつきに。

 『邪悪なるものは聖女を妬む』……()()、ということは。

「ま、まさか……王女様が?」

 ラケシスは再びわたくしの隣に腰かけました。
 疲れたように息をつき、首を振ります。

「……けっこうよく言われてる噂なんだよ。エリシャヴェーラ様はヴァイス様を慕ってらっしゃると」
「……嘘でしょう?」

 わたくしは否定されることを期待してカイ様を見つめました。切実に見つめました。

 カイ様はわたくしから目をそらしました。――本当に、嘘でしょう?
 あの騎士が、そんなに高貴なる人から慕われているなんて――。

 やがてカイ様は目をそらしたまま、か細い声でつぶやきました。

「……その。実は王女からは求婚もされていまして……。ヴァイスは断ったんです。王宮としても、いくら勇者の仲間でもよりによってヴァイスは困るので、もみ消してしまいまして……。でも王女だけが納得されて、なくて」

 ぐ、と息を吸い込む音。
 そしてカイ様はきりっとわたくしのほうを向きました。

「……正直に言います。お姉さんの託宣を王宮が取り消したのは、王妃様のご意向です。王妃様は……お子様方を溺愛しております。ですから」

 そ……。
 そんな、という簡単な単語さえ口から出ません。

「ちょっと待ってください、それはおかしい。それならなぜ託宣を初めから却下していなかったんです?」

 ラケシスが異議を唱えます。
 カイ様は怯えながら答えてくれました。
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