託宣が下りました。


「いってらっしゃい、アルテナ」
「ありがとうシェーラ」

 シェーラに見送られながら、わたくしは修道院から足を踏み出しました。

 午前十時。今日はまぶしいほどの晴天。空気もきれいで、遠目に望む山々がきれいに色づいているのがはっきりと見えます。

 わたくしは抱えた籐のかごを抱きしめ直しました。中身は大量の薬草――。
 大切な資金源。落としたりしたら大変です。

 『薬草を売りに行ってほしい』と、修道長アンナ様に頼まれたのは今朝のこと。
 本来はわたくしとシェーラの二人に申しつけられた仕事でした。ですがシェーラは、

『ごめん! 私今日やりたいことがあるの。一人で行ってもらえる?』

 薬草は一人で十分持てる量でしたし、わたくしとしては断る理由もありません。快諾したときのシェーラのほっとしたような顔を見れば、少しはいいことをしたような気にもなります。

『今日行く店、アルテナは初めてよね? 地図を描いてあげる』
『助かるわ。……行くのが難しいところ?』
『うん、ちょっと入り組んだところだから、迷わないように気をつけて』

 ざっくりとした位置を尋ねると、たしかに入り組んだことで有名な地区でした。店舗だというのにそんな場所にあっては、誰も見つけられないのではないでしょうか。

『特殊な魔術具店だからね。知る人ぞ知るでいいのよ』
 そう言ったシェーラは、慌てて言い足しました。『あっ、怪しいお店じゃないのよ? だって修道院が取引するようなところだし――。安心して行ってきてね』

 言われるまでもなく、アンナ様のお申し付けに危険が伴うはずもありません。わたくしは笑って『分かっているわ』と言いました。


 シェーラと別れ、道中はひとり――。

 人気のない修道院の周辺を離れ、活発な商業地区へと向かいます。

 目的地は商業地区をさらにはずれた、王都の東の端。
 王都は広いのです。地図上では気にならない距離も、実際には一時間歩く、なんてこともざらです。

 わたくしはシェーラの地図を眺め、考えました。

(まだかなり歩くし、お水を一杯飲んでいこうかしら)

 ……そう思ってしまったのが運のツキだったのです。
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