託宣が下りました。
 あのときのように、妙に尊大な口調でソラさんは胸を張ります。
 向かいでは、びっくりしたような顔でシェーラがわたくしたちを見比べています。

 わたくしはうんざりして額に手を当てました。

「あのねソラさん。わたくしはお兄様とは結婚するつもりはないと何度言ったら――」

 するとソラさんは即座にわたくしを見て、真顔で言いました。

「お兄ちゃんの何が不満なの」

 全部、と即答しかけてわたくしは慌てて言い直しました。

「不満とか不満じゃないとかではなくて。わたくしはあなたのお兄様を愛していないのよ、それで結婚できるわけがないでしょう?」
「でもお兄ちゃんはあなたが好き」
「……それでもです」

 ちくり、と胸が痛んだような気がして、わたくしは自分で驚きました。

 どうしたのでしょう? まさかあの騎士の「好きだ愛してる」攻撃を信じ始めたとでも言うのでしょうか?

(冗談ではありません)

 ふるふると顔を横に振ると、ソラさんは不満げに鼻を鳴らしました。また声のトーンを一段階低くし、

「それならそれでよい。我はそなたを見張り、そなたの言動次第では罰を下すのだ」

 それきり、目の前の食事にかぶりつき始めました。そして全てたいらげると、

「常に見ているぞ、巫女よ!」

 胸に例の怪しい人形(作り直したのでしょうか)を抱え、芝居がかかった一言を後に残して、風のように消えました。

「……すごいことになってるわねえ、アルテナ」

 シェーラがぽつりとそんなことをつぶやきます。わたくしはシェーラをにらみました。あの日わたくしを一人であの店へ行かせたのは誰だった?

 ですがあの日、シェーラが一緒にいれば状況は変わっていたのかと言えば……大して違いはなかったかもしれません。

 全てはアンナ様のご命令が始まり。ですが修道院のためのお勤め。
 ああ、本当に本当に――。

 わたくしの嘆きの一言を、シェーラは無視しました。きっとどうしようもないからなのでしょう。本当に、

「一体、どうしてこんなことに……」
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