託宣が下りました。
「ラケシス殿は元気でやっていると聞いているから安心してくれ。たっぷり話をしてくるといいぞ」
「はい!」
最後にわたくしの髪を撫でてから、騎士は手綱を打ちました。
彼の乗る馬がみるみる内に王都の方向へと消えていきます。
最後まで見送ったところで、わたくしの斜め後ろに控えていたウォルダートさんが、重々しく口を開きました。
「さて……ご準備なさいますか、奥様」
「お、奥様はやめてくださいと、この間お願いしたと思うのですが」
「はて。いずれ奥様におなりなら同じことかと。それまで待つのは時間の無駄と申しますか、気遣いの無駄と申しますか」
「む、無駄ではありませんっ」
二人でお屋敷へと戻りながら、不毛な会話を今日も繰り返します。
――正直なところ、罪悪感もあるのです。騎士がわたくしとの結婚のために出立を延期しているという、そのことに。
こうしている間にも魔王は復活の日は近づき、魔物は活発化しているというのに――
本当なら一日も早く、彼の望んでいるように、……み、身も心も彼のものになってしまえばよいのでしょうが。
王女エリシャヴェーラ様の妨害は深刻で、毎日のように何かしらのトラブルが起きてはわたくしたちの夜の雰囲気を壊すのです。