託宣が下りました。

 けれどクラリス様はわたくしの両手を取りながら、静かな湖面のような声で言いました。

「あんな公園で何をしていたの……。人気のない公園で眠る趣味があるわけじゃないでしょう……」
「―――」

 公園――公園?

 こめかみがずきずきと痛みます。
 急に、不安が襲ってきました。
 思い出せなかったのです――自分が、どの公園にいたのかが。

「わたくしは、どこの公園にいたのですか?」

 正直にそう尋ねると、騎士が驚いたように場所を教えてくれました。

「本当に大丈夫か? 記憶まで混濁しているのか」
「……その公園で何をしていたのか、思い出せる……?」

 重ねてクラリス様。
 公園……公園で。
 わたくしは何をしていたのでしょう? 一人……で?
 
 思い出せるのは、修道院にシェーラのお見舞いに行っていたところまででした。
 たしか……歩きで帰ろうとしたような、そんな記憶もあります。

 ですが、そこから先が思い出せません。

「……思い出せません……」

 わたくしは泣きそうな声でそう告げました。
 なぜ、公園などで寝ていたのか。考えると頭が割れそうに痛みました。

 一人……一人だった? わたくしは――
 もう一人……誰かいた、よう、な?

 もやがかかった記憶の奥に、人影が見えました。あまりにもあいまいな影で……それが誰なのか、まったく分からないのです。

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