託宣が下りました。
「で、でも、お姉さんもそうなるとは決まっていませんから!」
 カイ様の声が、必死なものに変わりました。「だから、受け答えに気をつけてほしいんです。うまくすればきっと切り抜けられます! 仮に託宣は無効のままでも、国外追放はまぬかれるはず――」

 わたくしは下を向きました。

 これ以上、カイ様の優しい顔を(口元しか見えないのですが)見ていることができませんでした。

 うまくすれば、最悪の事態はまぬかれる。それはそうなのかもしれません。だからこそ、カイ様はこうして早めに教えにきてくれたのです。

 でも。

 ……託宣が無効とされた時点で。
 わたくしの巫女としての立場は、完全に否定される――

 カイ様は最後まで謝り続けました。どうしてカイ様が謝る必要があるのか分かりませんでしたが、わたくしは大人しく聞いていました。

 そしてカイ様がお帰りになって……

 すぐに自習室まで戻る気にもなれず、わたくしはふらふらと庭を歩いておりました。

 ――ふと。
 視界に人影を見て、足が止まります。あれは……

(レイリアさん……?)

 新人のレイリアさんが庭の片隅で誰かと話しています。

 見たことのない男の人です。身なりからして修道院の下働きなどではなく、どこかいい家の使用人、といった風情でしょうか。
 こんなところで隠れるようにして、何を話しているのでしょう?

 レイリアさんは男性から何かを受け取ったようです。
 そして男性は、またたく間に姿を消しました。わたくしは目をぱちくりさせました。今のは術か何かでしょうか?

「そんなところでどうされたのですか、アルテナ様」

 声をかけられ、わたくしはぎょっと身を縮めました。

「逢い引きをのぞき見なんて、趣味がお悪いですよ?」

 気がつけばレイリアさんがこちらを見て笑っていました。受け取ったもの――小さな瓶――は胸に大切そうに抱いています。

「あ、逢い引き?」
「冗談ですよ。今のは家の者なんです。私の薬を持ってきてくれて」

 薬……

 レイリアさんはこちらまでやってくると、わたくしにも瓶を見せてくれました。

 何の変哲もない、液体の入った瓶です。こんな薬瓶なら、わたくしも何度も見たことがあります。

 何の薬でしょうか。そんな疑問をのせてレイリアさんを見ると、彼女は微笑みました。
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