託宣が下りました。
「眠り薬なんです。実は不眠症で……そういう自分の精神の弱さがいやで修道院へ来たのですが、簡単には直せそうにないので」
「……修道院には、薬のたぐいを全部提出するようにという決まりがありますよ」
「分かっています。すぐに提出します」
 伏せていた目を上げて、レイリアさんはにこりと笑う。「あ、彼が来ていたことだけは内緒にしておいてください。お願いします」
「……」

 わたくしは黙って肩をすくめました。しょうがないわね、の意思表示でした。

 カイ様がそうだったように、外部の人の入ることができる場所は限られています、今回くらいは目をつぶろうか。そもそも今のわたくしはそれどころではありません。このことをアンナ様に告げたら教育係のわたくしたちもろとも今すぐお説教になります。

 いつもなら当然のこととして構わなかったのですが、今は……そんな元気がありませんでした。
 早くシェーラに会って、カイ様が告げたことについて相談したい。心の中はそんな思いで一杯だったのです。

 ですが――

 異変は、それから三日と経たないうちに起きました。

「シェーラが……いなくなった!?」

 その報せに、わたくしは愕然と声を震わせました。

 急いでシェーラの部屋を見に行くと、シェーラの荷物がひとつ残らず消えていました。二人部屋のためがらんどうではありませんが、相部屋の修道女は泣きそうになりながら事情を話してくれました。

「昨夜シェーラ様と二人で夜の勉強の間にお水を飲んだんです。そうしたら、突然眠くて眠くて仕方がなくなって――」

 眠り薬。その言葉が、わたくしの脳裏を駆け巡りました。
 眠らされたのはこの子だけなのでしょうか。まさかシェーラ自身も……?

(……眠り薬? と言えば――まさか!)

 わたくしはレイリアさんの居所を捜しました。

 ――いません。
 案の定、と言うべきなのか。荷物ごといなくなっています。

 修道院はにわかに騒然となりました。

 どんな方法をとったのか分かりませんが、シェーラはさらわれたようです。そしてレイリアさんは、そのことに関わっているらしい――

 わたくしはアンナ様に、数日前にレイリアさんと交わした、眠り薬に関する会話を報告しました。
 とても叱られました。もっと早くにそれを報せていれば、シェーラは今もこの修道院にいたかもしれないと。
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