託宣が下りました。
「わたくしですか? わたくしは――」
「えーーーーーい!」
突然バタン! と扉が開かれ、
「出て行け、この化物め!」
先ほど廊下で聞こえていた声の主が飛び込んできた。ヴァイスが肩にかついでしまった子だ。
仲間を引き連れ、木の枝を剣に見立てて構え、ヴァイスをにらみつける。
「この孤児院のみんなに何かしたら、許さないからな!」
「こら! いい加減にしなさいあなたたち、この方はね、」
「いや、いい」
ヴァイスは修道女を制して立ち上がった。
女が当惑した顔をする。それににやりと笑ってみせて、
「化物に対抗しようという子どもたちだ。将来が楽しみだと思うぞ」
「お客さま……」
「俺はもう帰る。邪魔して本当に悪かった」
自分にしては殊勝な態度で謝意を表したと思う。
修道女は本気で申し訳なさそうに肩を縮めて、
「申し訳ありません……」
「すぐ謝るのはあんたの癖かな。直しておいたほうがいいぞ」
「え――」
「また、会えるといいな」
――そう、また会いたい。
自分の気づいていないこと、多分自分のまま生きていたなら知るよしもなかったこと。
それを教えてくれたこの地味な女と、心から再会を願った。
黒眼の奥に、星をたたえたこの女と――
*
ヴァイスが凱旋パレードにちゃんと出席するようになったのはその後のことである。
何となく、集まる人々の顔が見たくなった。自分たちが守ったのは誰なのかと、知りたくなった。
パレードの他の祝賀会にも参加するようになった。王女から逃げるのも含め、ヴァイスは一気に忙しくなった。
その合間合間にあの修道女の情報を探そうとしたのだが、うまくいかなかった。歯がゆい思いのまま時は経ち――
*
夏の終わりの星祭りが行われたのは、それからしばらくのことだ。
いつもなら興味なしで、ただお祭り騒ぎをするためだけに出席するヴァイスだったが、その夜は来賓席を陣取った。
そこからなら、星の託宣を受け取る『巫女』の顔が見られるから。
――あの女に会えるかもしれない。
それは根拠のない勘だった。だが、ヴァイスはこの手の勘には妙に自信があった。
星の巫女本人とは限らない。その周りの世話をする修道女にでも、彼女はいるかもしれない。
一目でいい。会いたかった。
名前を知りたかった。
そして自分の名前を――今度こそ教えたかった。
祭壇に今回の『星の巫女』がしずしずとあがる。
ヴァイスの胸が昂揚する。あの大人しげなたたずまい。地味で、だが凜とした背中。
『星の巫女』は顔を観客へは向けず、ただ夜空へ向ける。当たり前だ、彼女は星の神に祈りに来たのだ。