託宣が下りました。
背中に、シェーラの視線を感じました。後ろ髪をひかれる思いでわたくしは走りました。
走りながら祈りました。このことが家人に気づかれていませんように。どうかシェーラが咎められませんように――
幸い、わたくしをさがしてブルックリン家の家人が来るようなことはありませんでした。
わたくしはとぼとぼと歩いて、馬車に戻りました。
シェーラには会えました。でも、これではますます心が晴れない――
「む」
そのとき、誰かが馬車の陰で振り向きました。「おお! 待っていたぞ、巫女よ!」
「……!?」
その声。
わたくしはばっと顔を上げ、盛大に引きつりました。
わたくしに向かって駆け寄ってくる人影。たくましい長身に剣をぶら下げ、なぜか肩に大きな袋をかついで、にこにこしながら。
「き、騎士ヴァイス! なぜここに……!」
「巫女! 会いたかった……!」
騎士はかついでいた袋を放り出し、わたくしに抱きつきました。
わたくしは即座に突き飛ばしました。
「ごふっ。い、今のは効いた」
「アレス様に対処法を教えてもらったのです。いきなり抱きつくのは失礼ですよ!」
「なんとアレスが!? おのれあの裏切り者の親友め、人の恋路を邪魔するか!」
騎士は腕を振り回して怒ります。
……邪魔するも何も、先日いい加減にしろと勇者様に怒られているはずなのですが。
「わ、わたくしに近寄らないで」
わたくしはじりじり後ずさりながら――心の中で、小さくため息をつきました。
騎士にではありません。自分に呆れたのです。いつだってこうして散々拒絶しているくせに……
心細かった今、騎士の顔を見てほっとしているのですから。