託宣が下りました。
「ところで巫女よ、土産だぞ」

 そう言って、騎士は投げ出したばかりの大きな革袋を示しました。

「……? 何でしょうか?」
「見てくれ、戦利品だ」

 鼻歌を歌いながら袋を開く騎士。
 わたくしはぎょっとしました。中から現れたのはきらびやかな大量の宝石――

「ま、魔物の」
「お、知っているのか? そうだ。これは宝石ドラゴンが食らった宝石だ。アレスと交渉してもらってきた」

 騎士は鼻高々にわたくしに顔を向けました。「さすがにそのままでは汚いと思ってな。ウルグ湖まで行って洗ってきた。だから安心だぞ」
「……!」

 ウルグ湖と言えば、王都周辺で一番美しいと評判の湖です。周辺と言いますが、行くのに片道二日かかります。
 まさかそんな手間をかけてきたのでしょうか。わたくしは大いに慌てました。

「い、いただけませんよ? そんな高価なもの――」
「分かってる」

 予想外に、騎士は重々しくうなずきました。「たぶんあなたは受け取ってくれないだろうと――。俺としては不満なのだがな、巫女はそれでこそ巫女だからな」
「……」

「だからこれは金に換えて、修道院と孤児院と救貧院に寄付してくることにした。どうだろう?」
「……!」

 ど――
 どうしたのでしょう!? 騎士が、騎士がまともなことを言っています……!

「どうしたのですか騎士ヴァイス!? まさか魔物の毒にあてられて……!?」
「いやー巫女、前から思っていたがあなたはなかなかひどいなあ」
 騎士は気にした様子もなくはっはっはと笑いました。「安心してくれ。俺は毒耐性は強い」

 問題はそこではないと思いますが。

「そ、それじゃあ――戦いの中で頭を打ったとか?」
「まあたまには頭も打つが、関係ない」
「打ちすぎて自分では分からなくなってる……?」

 大丈夫なのですか、とおろおろとわたくしが言うと、騎士はふと首をかしげました。

「ん……? ひょっとしてこれは、巫女に心配されているのか?」
「――!」
「嬉しいぞ巫女! とうとう俺にも心を寄せてくれるようになったんだな!」

 嬉々として飛びついてくるので――即座にアレス様流撃退法を発揮します。

「み、巫女……そのやりかたはなかなか殺傷能力があるぞ」
「アレス様が、騎士ヴァイスは頑丈だから大丈夫だと」
「おのれアレス」

 アレス様と騎士の友情にひびが入るかも。ちょっと申し訳ないです。
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