託宣が下りました。
 それにしても……まじめな話、本当に驚きました。

「あなたにも寄付の習慣があったのですね」

 騎士は嬉しげに口元を微笑ませました。

「なに、ふだんならそういうのはアレスたちに任せているんだが。俺もたまには巫女に認めてもらいたくてなー」
「……認めて……」
「宝石も、こうして持ってきたのはあなたに褒められたかったからなのさ。口で『宝石を金に換えて寄付した』と説明するよりずっと褒めやすいかと」

 騎士は笑いながら宝石に視線を落としました。
 宝石を手にすくい、ざらざらと落とす動作はどこかの成金のようです。でも……

 その顔がどことなく恥ずかしそうに見えたのは……わたくしの気のせいでしょうか。

(……わたくしに、認められたいから……)

 胸の中に、その言葉が幾度も巡りました。

 半分は原石だと言うのに、宝石の輝きは目にまぶしいほどです。洗うだけでなく、磨いてもあるのかもしれません。
 それにこれだけの量、さすがの騎士でも重かったでしょうに。ウルグ湖まで持って行ったりここまで運んできたり……

「……本当に素晴らしいと思います、ヴァイス様。さすが勇者様の片腕です」

 そのときいつもと違う呼び方をしたのは、単なる気まぐれ――

 騎士が顔を輝かせるのを見て、こちらのほうが恥ずかしくて目をそらしました。だって子どものように無邪気な顔をするんですもの。
 男の人はみんなこうなのでしょうか? それともこの人だけ……? ああ、落ち着きません。
 本当に、この人は苦手です。

 これ以上御者さんを待たせるわけにはいきませんでしたので、わたくしたちは二人で馬車に乗り込みました。

「≪紺碧の空≫亭まで頼む」

 騎士は勝手に行き先を決めます。わたくしはじろりと騎士をにらみました。

 と言っても、この土地はわたくしにとって初めて来た土地。これからどうしていいか分からなかったので、実はありがたいのですが。

 ちなみに、本当は離れて座りたかったのですが、この馬車は二人乗りです。したがってどうしても騎士と隣り合わせに座ることになります。騎士の機嫌が異様にいいのはそのせいなのでしょうか。

 わたくしはお尻が落ち着かず、もじもじしていました。
 すぐ隣に人の体温があるのも……あまり得意ではありません。
< 53 / 485 >

この作品をシェア

pagetop