託宣が下りました。
「巫女よ、どうした?」
「な、なんでもありません」

 わたくしはこほんと咳払いをし、頭を切り換えようとしました。

「それにしても。騎士はどうしてここへ? 宝石を渡すためなら、王都で待っていたほうがよかったでしょうに」
「なに、一日も早く巫女に褒めて――もとい、巫女に喜んでもらいたかったのさ。シェーラ殿の話は聞いていたしな」
「だ、誰に?」
「屋台の亭主に」

 盲点でした。わたくしは、ああと声を漏らして手で顔を覆いました。

 アレス様たちの行きつけの屋台――それはつまり騎士の行きつけでもあるのです。いくら口の固いご亭主であっても、勇者様一行は例外なのでしょう。
 そして騎士ヴァイスは、ときどき忘れそうになりますが、れっきとした勇者様一行の一員なのです。

「しかし巫女は行動力があるな。さすが俺の妻になる女性!」
 騎士はうんうんと満足そうにうなずき、「無謀さも俺の好みだ。あなたは何から何まで俺の理想だな」
「む、無謀……」

 ぐさりと胸にナイフが刺さりました。
 ……無謀。その通りです。シェーラに会いたいばかりに、勢いで行動してしまいましたが、

(正しい行いとは、言えないです……ね)

 わたくしは小さくため息をつきました。それにしても――

 騎士の好みってなんですか。わたくしはこの人の好みだったのですか。知りたくない事実でした。
 いえ、そんなことはどうでもよくて。

「……シェーラに、心配をかけてしまいました」

 わたくしは最後に見たシェーラの顔色を思い出しました。あんなに真っ青なシェーラは、初めてみたのです。

「いいんじゃないか?」
 騎士はどこまでも気楽そうに言いました。「心配をかけ合うのも親友というものだろう。俺などアレスに『お前といると一日につき五日寿命が縮まる』と言われたぞ。あいつが若死にしたら俺のせいだな!」
「そんな親友になるのはいやです」
「巫女はまじめだなあ。だが巫女の真心はシェーラ殿にも通じたと思うぞ」

 ふと。
 騎士はやわらかく微笑しました。

「……シェーラ殿も、心細かっただろうから」
「……!」

 シェーラが、心細い――?
 そう、そうなんだ。

(わたくし、シェーラの気持ちを全然考えていなかった)

 シェーラがいなくて、自分ばかり寂しい思いをしているような気がしていました。でもそんなわけはなかったのです。
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