託宣が下りました。
わたくしは振り返り、遠くなっていく別荘を見つめました。
あのお屋敷に、シェーラの味方はいるのでしょうか? せめてそれだけでも知ることができれば。
何より、一番したかったことはまだ為せていないのです。
「……シェーラと話がしたくて来たのです」
わたくしはぽつりとつぶやきました。「シェーラがいつもわたくしの話を聞いてくれているように……今度はわたくしがシェーラの話を聞きたいのです」
「そうだな」
騎士は珍しく穏やかでした。
彼はおもむろに手を伸ばし、わたくしの頭をぽんぽんと叩きました。
「その思いは、とても大切だと思う」
「――」
わたくしはカッと顔が熱くなるのを感じ、急いでうつむきました。
何でしょうか、今日の騎士は。こんなに穏やかなんておかしすぎます。
やっぱり魔物の毒に? 頭を打って?
それとも――そう、騎士は妹さんが多いそうですから、わたくしを妹のように扱っているのかもしれません。ソラさんが癇癪を起こしたときはこんな風になだめているのです。そうに決まっています。
ぷいと騎士から顔をそらし、わたくしはこっそり手でぱたぱたと顔を仰ぎました。ああ、熱い。
気をまぎらわすために現実の話をします。いくらシェーラに会いたいと思っても――
「あ、会うのは難しいので困っています。ブルックリン伯爵が許可をくださるとも思えませんし」
「まあ許可は下りんだろうな」
騎士はあっさり肯定しました。「しかし、会うのに許可はいらんぞ?」
「……え?」
「もう一度こっちから会いにいけばいい。伯爵のいないときにな」
わたくしは思わず騎士を見ました。騎士は自信満々な顔でわたくしを見つめます――。
*
ブルックリン伯爵のいないときに、会いに行く。
わたくしはそれを、伯爵の留守にお屋敷にお邪魔する、という意味に取りました。ですが……
「――し、忍び込むなんて、聞いていません……!」
「だってこれしかないだろう」
夜。別荘の裏口の前で、騎士はいけしゃあしゃあとそう言いました。「屋敷の人間は全員伯爵の言いなりだ。まともに面会を願って会えるはずがない」
「そ、そうですけれど……!」
だからって、深夜に屋敷に忍び込むなんて……!
今は秋。夜は冷えます。風が吹き、わたくしはぶるりと震えました。
水気のある冷たい風です。雨が降るかもしれません。
あのお屋敷に、シェーラの味方はいるのでしょうか? せめてそれだけでも知ることができれば。
何より、一番したかったことはまだ為せていないのです。
「……シェーラと話がしたくて来たのです」
わたくしはぽつりとつぶやきました。「シェーラがいつもわたくしの話を聞いてくれているように……今度はわたくしがシェーラの話を聞きたいのです」
「そうだな」
騎士は珍しく穏やかでした。
彼はおもむろに手を伸ばし、わたくしの頭をぽんぽんと叩きました。
「その思いは、とても大切だと思う」
「――」
わたくしはカッと顔が熱くなるのを感じ、急いでうつむきました。
何でしょうか、今日の騎士は。こんなに穏やかなんておかしすぎます。
やっぱり魔物の毒に? 頭を打って?
それとも――そう、騎士は妹さんが多いそうですから、わたくしを妹のように扱っているのかもしれません。ソラさんが癇癪を起こしたときはこんな風になだめているのです。そうに決まっています。
ぷいと騎士から顔をそらし、わたくしはこっそり手でぱたぱたと顔を仰ぎました。ああ、熱い。
気をまぎらわすために現実の話をします。いくらシェーラに会いたいと思っても――
「あ、会うのは難しいので困っています。ブルックリン伯爵が許可をくださるとも思えませんし」
「まあ許可は下りんだろうな」
騎士はあっさり肯定しました。「しかし、会うのに許可はいらんぞ?」
「……え?」
「もう一度こっちから会いにいけばいい。伯爵のいないときにな」
わたくしは思わず騎士を見ました。騎士は自信満々な顔でわたくしを見つめます――。
*
ブルックリン伯爵のいないときに、会いに行く。
わたくしはそれを、伯爵の留守にお屋敷にお邪魔する、という意味に取りました。ですが……
「――し、忍び込むなんて、聞いていません……!」
「だってこれしかないだろう」
夜。別荘の裏口の前で、騎士はいけしゃあしゃあとそう言いました。「屋敷の人間は全員伯爵の言いなりだ。まともに面会を願って会えるはずがない」
「そ、そうですけれど……!」
だからって、深夜に屋敷に忍び込むなんて……!
今は秋。夜は冷えます。風が吹き、わたくしはぶるりと震えました。
水気のある冷たい風です。雨が降るかもしれません。