託宣が下りました。
 ――ブルックリン伯爵が商談でいない夜を待つため、わたくしは二晩も騎士と同じ宿で過ごしました。もちろん、同じ部屋ではありません!

 それでも毎夜、いつ騎士が来襲するか緊張して構えていたのですが、彼は来ませんでした。
 来て欲しいわけではありませんけれど……拍子抜けしたのは事実です。

 何事もないまま、宿に泊まって三日目。

「情報が入ったぞ。今夜は伯爵が屋敷にいない」

 騎士からの報告に歓喜したわたくしは、早速シェーラに会いに行く準備をしました。しかし騎士が告げた時間はなぜか『夜』。

 そして――今この状況です。

「わ、わたくしの行動を無謀と言っていたくせに」

 わたくしは寒さに肩を縮めながら騎士をにらみました。
 騎士はあっけらかんとした顔で言いました。

「無謀は好きだと言ったろう?」
「……」
「心配ない。俺と一緒にいれば何も問題ない」
「そ、そんな自信どこから――」
「大丈夫だ」

 騎士は上着を脱ぎ、わたくしの肩にかけました。
 そして、わたくしの目をまっすぐに見ました。

 暗闇の中、騎士が手にした松明の明かりが騎士の顔を照らします。
 騎士の瞳は、夕焼けと同じ色。それが今、どこから来るのかさっぱり分からない自信にあふれてわたくしを見つめています。

「あなたは俺が守る。大丈夫だ」

 わたくしはくらりと目眩がするような心地に襲われました。
 夕焼けを見るときに覚える、理由のない安心感。それと同じ。

 落ち着き払った声はわたくしに手を差し出すようで――。

(ま、待って。とんでもないことをしようとしてることに変わりはないわ!)

 わたくしは必死で雰囲気に呑まれそうになる自分に言い聞かせました。けれど、

「いいのか? この機会を逃すとシェーラ殿とは二度と会えないかもしれん」
「……!」
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