託宣が下りました。
「だれ!」

 中から鋭い一声。こんな深夜なのに起きている――?

「シェーラ」

 わたくしが呼ぶと、はっと驚くような気配が空気に伝わってきました。

 寝室の大きなベッドの上に、シェーラはいました。枕元にランプを置いて、こんな時間なのに読書をしていたようです。

「シェーラ」
「アルテナ!」

 シェーラはベッドから飛び降りて、駆け寄るわたくしを抱き留めてくれました。お互いに強く、強く抱き合い、無事を確認します。

「シェーラ……良かった。心配したのよ」
「アルテナ、ごめん。ごめんね」

 シェーラは泣いていました。この間はごめん、と繰り返します。そんなことはいいのに。あのときはわたくしが無謀だっただけです。

 今回はさらに無謀ですけれど。

「いやー無事で良かった」

 騎士は少し離れて立ち、のほほんとそんなことを言いました。
 シェーラは騎士を見て、「え……ヴァイス様!?」と口に手を当てました。

「アルテナ、ヴァイス様と一緒に来たの!? こんな深夜に!?」
「それについては深く聞かないでお願い」

 シェーラがにやにやと怪しい笑みを浮かべます。良かった、いつものシェーラです。

 でも……やっぱりやつれているような……?

「シェーラ、いったいどうしたの?」
「うん……」

 わたくしはシェーラをベッドに座らせました。見れば見るほど、やっぱり顔色が悪いのです。
 あんまり眠っていないの、とシェーラは言いました。

「眠る気にならなくて。だったら勉強していようかと思って」

 と、先ほどまで読んでいた本を指し示します。

「何の本?」
「基礎魔術……」
「ま……!?」

 シェーラは肩を落としました。

「……魔術でも使えるようになったら、ここから逃げられるかなって」
「シェーラ……」
「私、結婚させられそうなの」

 わたくしは息を呑みました。シェーラは、わたくしをまっすぐ見ました。

「噂は本当だったのね」
「そう。ミハイル伯爵のところのマックスと」
「マックス……?」

 ミハイル伯爵家のご長男はマクシミリアン・ミハイル。マックスは愛称で、近しい人しか使わないはずです。
 ということは……

「マックスは昔なじみなのよ。あいつは子どものころから王都に留学に来ていたから。縁があったの」

 シェーラは不満そうに唇を突き出しました。

「で、昔からプロポーズされていたわ。私はずっと断ってきた」
「どうして?」
「だって!」
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