託宣が下りました。
 シェーラは爆発するように何かを吐き出そうとしました。

 けれど、その視線が別のものを気にしました。――騎士ヴァイスです。

「……だって」

 やがてシェーラは騎士に聞こえないように、わたくしに顔を近づけ、小さな声で言いました。

「あ、あいつ、『貧乳は我慢してやるから嫁に来い』って言ったのよ……!」
「………」

 わたくしはひとつ、うなずきました。

「なるほど……」

 わたくしとシェーラが仲良くなったのには、ひとつ大きな共通点があったからでもあります。
 女でこの特徴を持つものは誰しもその言葉を忌み嫌っている……きっとそうです。いえ、たぶんですけれど!

 わたくしのごとく男性が苦手な女でも、気にはなるのですよ! それなのに、シェーラはそれをまともに指摘されてしまって――。

「シェーラ。逃げる気持ちよく分かったわ」
「分かってくれる? 分かってくれるのねアルテナ!」

 わたくしたちはもう一度ひしと抱き合いました。
 ……抱き合っても胸がぶつかることはない。それがわたくしたちです。

「お父様は裕福なミハイル家との繋がりを強くしたいのよ。で、ミハイル家は田舎の新興貴族だから……王都組で古いうちとの繋がりがほしいの。王都との繋ぎ、足がかりね」

 なるほど貴族らしい理由です。そういった親同士の打算も、シェーラが反発したくなる原因なのでしょう。

 わたくしはシェーラの手を握りました。

「でも独学で魔術はあまり感心しないわ。魔術はちゃんとしたところで修行しなければ危険な力でしょう?」
「そうなんだけど……」
「別の方法を考えることはできない?」

 そう言いながら、わたくしも自分でその言葉の虚しさを感じていました。別の方法? そんなものがあるのでしょうか。

「別の方法ならあるぞ」

 突然、騎士がそんなことを言いました。
 わたくしとシェーラは揃って騎士を振り返りました。

 騎士は、指を二本立てました。

「ひとつ、伯爵に堂々と願い出る。ふたつ、今ここで俺たちと一緒に逃げる」
「どちらも論外です」

 わたくしが即答すると、騎士は首をかしげました。

「どうしてだ?」
「どうしてって――」
「俺から言わせればこのふたつは成功率が半々だ。なんせ俺がいる」
「あなたが――?」

 騎士がいると何の得があるというのでしょう? 分からなくて、わたくしはきつく顔をしかめました。
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