託宣が下りました。
「冗談はよしてください。真剣な話なんです」
「俺はいつでも真剣だぞ、巫女よ」

 まあたしかに真剣だからこの人は始末が悪い――のはどうでもよくて。

「ヴァイス様」

 シェーラが身を乗り出しました。
 その疲れた顔が、今は鬼気迫るものに変わっています。

「ヴァイス様。本当に協力してくださいますか?」
「シェーラ! 何を言っているの?」
「ヴァイス様がおっしゃっているのはたぶん本当よアルテナ。お父様は、ヴァイス様がいると態度を変える」

 シェーラはわたくしを見つめてうなずきます。

「何しろ今でも毎日アレス様やヴァイス様に遣いを出してご機嫌うかがいをしているくらいだから――。大半の日は、ご本人に会えないみたいだけどね」
「え……?」
「私ね」

 身を乗り出すのをやめ、シェーラはベッドの端に腰かけ直しました。

「……王都の貴族の子女に生まれたから、昔からたくさん社交界に出ていたの。たくさん、同じ貴族の子女に会ってきたわ」
「……」
「多くの子が、親が決めた道を歩くことを強いられていた。そして、半分の子はそれを受け入れていたけど――半分の子はそれを嘆いていた」

 彼女は嘆息しました。

「難しい話よね。昔は受け入れて当たり前だったのよ。でも今は多少自由になったからこそ……不満に思う人が増えてしまったってことみたい」

 そしてそれは、私も。シェーラは目を伏せます。

「でも私は――貴族に生まれたことを、この環境を、嘆くだけで何もしない人間には、なりたくなかった」
「シェーラ」
「お父様には何度言っても無駄だった。だから家を飛び出したの」

 目線を上げ、わたくしの顔を見て、シェーラは真顔で言いました。

「正しいやりかたとは思ってない。でも他にやれることが当時の私には思いつかなかった……いえ、きっと今の私でも同じことをするわね」
「……」
「ごめんなさい。修道院に迷惑をかけて」

 わたくしは首を振りました。

「誰も怒っていないわ。ただシェーラの心配をしているだけ」
「アルテナ……」
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