かりそめ蜜夜 極上御曹司はウブな彼女に甘い情欲を昂らせる

 相手の柔らかい物言いにそれ以上なんの疑いもせず、荷物はそのままに第一会議室へ向かおうと席を立つ。

「葉月、どうしたの? 今の内線誰だった?」
「うん。それが秘書課の香野さんなんだけど、杏奈知ってる?」
「香野? あぁ。あのお高くとまった、いけ好かない女性秘書さんね」
「え、そうなの?」
 
 杏奈の情報網は、芸能リポーター並みで間違いない。でも香野さんの話し方は、いけ好かない感じではなかったような……。

「その女性秘書さんが、葉月になんの用があるっていうのよ?」
「至急お聞きしなければならない案件? とやらがあるみたい」
「なによ、至急な案件って。ねえ、大丈夫? 彼女に、なんか恨みでも買った?」
「う~ん。それがまったくって言っていいほど、なにもないんだよね」
 
 とにかく香野さんとは、それくらいほとんど接点がないのだ。だからプライベートな用事ではないと思うけれど……。

「とにかく、急いでるみたいだから行ってくる」
「わかった。一応スマホ持っていきなさいよ。もうしばらくここにいるから、なにかあれば連絡して。すぐに助っ人しに行く」
「ありがとう。でもきっと大丈夫だから、仕事が終わったら帰っていいからね」
 
 もしなにかあっても彼女に迷惑をかけるわけにはいかないと杏奈に手を振り、急いで廊下に出た。


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