かりそめ蜜夜 極上御曹司はウブな彼女に甘い情欲を昂らせる
三十四歳の彼だもの、今までにたくさんの恋愛をして素敵な彼女がいたんだろう。その彼女たちとタイプの違う正反対の私が珍しくて、ちょっとからかって手を出したに違いない。それを真に受けて、本気になってしまった。ちょっとした、お笑い種だ。
今日のところは用事ができたとメールして、まっすぐ家に帰ろう。お風呂に入れば、少しは気持ちも落ち着いて、冷静な判断ができるはずだ。
ネガティブな思いばかりが頭をよぎり、悲しみを堪えるように下唇を噛みしめる。その瞬間、階下から誰かが階段を上ってくる足音が聞こえて慌てて階段の端に寄った。顔を見られないように俯き、その場を通り過ぎようとしたそのとき。
「葉月?」
聞き覚えのある声で名前を呼ばれ、驚いて顔を上げる。階段を上ってきたのは瑞希さんで、今一番会ってはいけない人の登場におろおろしてしまう。
「瑞希……遊佐部長。お、お疲れ様でした。お先に失礼いたします!」
彼の顔も見ないまま一気にまくしたてるようにそう言って、会釈して階段を降りようとすれ違う間際。すんなり帰してはくれないだろう思っていたが、予想通り腕を掴まれた。