田舎猫と都会猫、のはなし。
憧れの都会猫。

貴方に会いたい。
ただそれだけで。
見ているだけで。
よかったはずで。

追っては、逃げる。
逃げては、追う。
僕はその辺の田舎猫。
貴方は素敵な都会猫。

都会猫の彼は、
産まれも育ちも都会の、猫。
スタイリッシュで、完璧。
頭もよくて、人気者。

平凡な僕は、
見ていることしか
できなかった。

あんなことが、あるまでは。

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地元の田舎独特の
監視と閉鎖的な空気が苦手で
家族ともケンカして
飛び出して、ここにいる。
簡単にいうと、家出。

僕は自由。そう自由なんだ。

林立する高層ビルの中、
雑多な埃まみれの空気感、
その隙間の狭い路地に入ると
真夜中なのに明かりが眩しい。

立ち並ぶ看板照明に、
目をやられたのかな。
鼻も目も、
ひどく乾燥している。

喉も乾いた、お腹もすいた。
お金もなく、気のみ気のまま
飛び出してきたから。

家を出てからは、とにかく
持っているわずかなお金で
バスと電車を乗り継いで、
その後は、ひたすら歩いた。

いま持っているのは
少しの小銭と
小さなリュックと
水筒とハンカチちり紙。

明らかにスタイルが
田舎から出てきた
こどもの遠足状態。
浮いている、完全に
センスの皆無な自分でも
そう思う。

出てくる時は
どうしようとも思わなかった。
地元を離れた安堵感が先に立ち、
高揚感があった。
自分でしたいことが自由に選べる。
誰にも邪魔されない。
それこそ自分が望んでいたこと。
その期待の方が大きかった。

ただ、今は、お腹が空いた。
現実というモンスターが、
一気に押し寄せてきた感じ。
それをなんとかするのは
自分、しかない。

ふらふらと街をさまよって、
休んでいると声をかけられる。
「暇なら遊ばない?良いところ行こ。」
「いや、いかない。」
「そんなこといわずにさ、行くところないんだろ?」
「け、結構です!」
腕を振り払い、小走りに逃げる。
が、後をつけられている。

「怖い」

変なのに追われないように
狭い路地に入りこんだ。
歩き疲れて足が痛くなったので
とある店の片隅で
隠れるように座っていた。


そして…
出会ってしまったんだ。
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